関口 悟
以前から電動車椅子の操縦には気を付けていたけれど、瑞江駅北口のドラッグストアの前で、通りの向かいを白杖を頼りに歩いていた目の不自由なTさんをよけられず、勢いがついたぼくの電動車椅子の足置き台でTさんの白杖を折ってしまった。
目の不自由なTさんは白杖を折られた理由が読み込めず、白杖がなければ家にも帰れない。ぼくはぼくで目の不自由なTさんに白杖を折った理由をうまく説明できず、ただ.うろたえてSTEPの事務所に電話することしかできなかった。今思えば、もう少し落ち着いて出来ることがあったはずなのに。
事務所のスタッフが来るのを待つ間に、たまたま理事長のIさんが通りがかって、Tさんとぼくに事情を聞いて、Tさんを家まで送り届ける姿を見て、ぼくは何でそこまで出来なかったんだろうかとかなり落ち込んだ。
せめてもの救いは、Tさんにケガがなかったことだ。Tさんの白杖は高田馬場の点字図書館に在庫があって、STEPが取り寄せてTさんに届ける形になった。白杖の代金はぼくの保佐人Oさんが負担した。
STEPの事務所に白杖が届いた日、理事長のIさんとぼくとでTさんに白杖を届けに行って、ぼくは改めてTさんに大切な白杖を折ってしまったことを謝罪した。
今までにも、電動車椅子でビルのドアのガラスを割ったり、お店の内装に傷をつけたりと、いろいろ周りに心配をかけて来たけれど、もう二度とこんなことは繰り返さないと心に誓った。特に今回のように他の人を直接巻き込むのは、お互いにつらくなるから。